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題:コロナウイルスとHIVに取り組むアフリカ
英題:Africa: tackle HIV and COVID-19 together
記事リンク:https://www.nature.com/articles/d41586-021-03546-8#ref-CR4
内容と背景:
こんばんは!PIck-Up!アフリカをご覧いただきありがとうございます。
本日はアフリカでのコロナウイルスとHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の関係性についての記事をピックアップしました。
先日南アフリカでオミクロン株と呼ばれる新たなコロナウイルスの変異体が発生しました。このウイルスは瞬く間に日本やヨーロッパを含む36各国(3日16:00時点)へと感染を広げ、世界に新たなパンデミックの脅威をもたらしました。(文末記事1)これまでの変異体よりも感染力が強いとされ、「最悪の変異株」とも言われているこのオミクロン株は南アフリカのエイズ患者から始まったと推定されており、また一部の専門家はHIVが蔓延するアフリカがこのウイルスによって危機的な状況に陥る可能性があることを示唆しています。(文末記事2)
ここではHIVがアフリカのパンデミックを助長することが指摘されているわけですが、実際に今回の記事では、そうしたコロナウイルスとHIVの関係性についての科学的な説明がなされており、HIVがコロナウイルスの状況悪化に寄与していることが示されています。
コロナウイルスとHIVの関係性
HIVがコロナウイルスの状況を悪化させる原因の1つとして、HIVがコロナ患者の死亡率を上昇させてしまうことが挙げられます。
実際に記事では、症状が進行しているHIV患者においてコロナウイルスによる死亡リスクが高まったことが述べられています。これはHIVによって血液中のT細胞が減少したことによる重度の免疫不全が原因だと考えられており、南アフリカの西ケープ州に住む約350万人(そのうち約50万人がHIV陽性者)を対象とした集団ベースの分析では、HIV感染者のコロナウイルス死亡率は健常者の死亡率の2倍まで高まり、HIVが薬などにより制御されていない人やさらに症状が進行している人の場合は、さらに約4倍まで上昇したと指摘されています。
また、もう一つの原因として、エイズ患者はコロナウイルスに罹ったときにその突然変異を誘発しやすいことが挙げられます。
健常者がコロナウイルスに罹った場合は約二週間で症状が完治するのに対し、エイズ感染者がウイルスに感染した場合は完治まで数か月かかることがあります。記事では、こうしてウイルスが体内に存在する期間が長くなることでウイルスの変異が増加し、危険な変異体が生まれる可能性が高くなってしまうと述べられています。オミクロン株の出現もエイズ患者の体内での度重なる変異の結果だと考えられていますが、エイズ患者が多いアフリカではさらに強い変異体が生まれる可能性も高いため、一部の専門家は危機感を抱いているのです。
このように、HIVはコロナウイルスによるダメージを増大させる作用を持っているので、アフリカのコロナパンデミック収束のためには、HIVへの対策が必要となってきます。しかしながら、アフリカでのHIVへの感染対策や、治療の現状はあまり芳しくないと考えられています。
HIV対策、治療の現状
記事には、サブサハラアフリカのHIV患者の数は全世界の2分の3を占めており、昨年はサブサハラアフリカ内で1950万人が抗レトロウイルス治療(HIVの進行を抑えるために用いられる薬剤療法)を受けたという記録があります。これは5年前の1210万人と比べると飛躍的な伸びですが、未だにサブサハラアフリカでは800万人ものHIV患者が効果的な抗レトロウイルス治療を受けることが出来ていないと言われており、HIV治療体制の拡充が不十分であると指摘されています。
それに加えて、コロナウイルスがアフリカのHIVの治療と感染予防体制に混乱をもたらしたことが示唆されています。コロナの影響による身体的、精神的ストレスから多くの医療従事者が職を離れるとともに、海外のHIV関連の資金が減少して国連合同エイズ計画(UNAIDS)など、HIVへの世界的な対応に関わる主要組織の資金が80%以上も削減されたことで、HIVの治療、感染予防に人手も、お金も割くことが出来ない状況に陥りました。
実際に記事では、2019年から2020年にかけて、世界基金が支援するアフリカの12カ国で主要なHIVの検査・予防サービスが減少したことが紹介されています。2019年と比較して、例えばHIV検査は22%減、HIVの女性から男性への性感染を60%減少させる自主的な医療男性割礼は27%減少し、胎内の子どもへのHIV感染を防ぐための薬を受ける母親の数は4.5%減少しました。
そして、コロナ禍でのHIV治療の問題点として、コロナワクチンがHIV患者に行き渡らないことも挙げられています。先ほども述べたとおり、HIV患者はコロナウイルスに対する耐性が低く死亡率も高いですが、アフリカでは全体の7%しかワクチンを摂取していない上に、HIV患者よりも高齢者の接種が優先されているため、アフリカでは全体の80%が50歳以下であるHIV患者たちの接種が遅れてしまうという問題があります。
こうしたHIVの感染予防、治療が不十分な状況によってHIVの感染や患者の症状の進行を止めることができていないことに加えて、患者に対するワクチン投与が遅れていることでコロナウイルスによる死亡率やウイルスの突然変異の確率が上昇してしまっています。こうした状況を変えるにはコロナとHIVの両方の改善に同時に取り組むことが重要となってきますが、記事では具体的に、両問題の改善のためにこれから取り組むべき4つのことが紹介されています。
コロナウイルス、HIVの改善のためにすべきこと
1.アフリカにワクチンを供給する
これはHIVの感染者をコロナウイルスから守るためにも、アフリカでのパンデミックを収束させていくためにも必要となってくる最重要課題と言えます。また記事によると、アフリカでのワクチン接種率の増加が変異体の出現の抑制に繋がり、世界的なパンデミックの制御を強めるとされています。
2.コロナとHIVの関係性の研究を加速させる
コロナ感染が長期化することはHIV患者の症状が進行している状態では日常的なことなのか、それとも極めて稀なことなのか、またワクチンを接種した後でもそのような感染が起こるのかどうかといった、この分野の研究で得られる情報は長期的な目で見れば、HIV患者がコロナウイルスに罹ったときの対応を効率化する可能性があります。
また副作用のリスクがあるコロナワクチンがHIV患者に与える影響は世界的にもあまり研究されていないため、安全性の確保のため、ワクチンとHIVの研究も同時に取り組む必要があると述べられています。
3.コロナ禍においてもHIVに対する医療サービスを維持する
HIVの症状を抑えるためには継続的な抗レトロウイルス薬の投与が必要であるため、コロナウイルスによって医療が混乱している中でもHIV患者へのサービスを続けることは非常に重要な事です。
サービスの維持のための取り組みは様々な形で既に行われてきており、こちらの記事では、コロナ禍でもHIV患者たちが薬を手に入れることができるように、薬の自宅配送や余分提供を行っていることが紹介されています。こうした取り組みの一方で、薬を手に入れることが出来ない人はまだまだ多く、これからはさらに支援の輪を広げていくことが期待されます。
4.コロナウイルスとHIVの医療サービスを統合する
2つの医療サービスを一部統合することで、両方の感染状況の改善のための医療サービスが効率的に行われると述べられています。例えば、現在HIVの検査や抗レトロウイルス療法を行っている診療所やセンターでコロナワクチンの接種を行うことで、進行したHIVに罹患した人が接種を優先的に受けることができるようになります。また同様に、コロナワクチンの接種時にHIVのテストを行うことで、新たな患者を発見することができます。こうしたサービスの統合により、両ウイルスの撲滅に同時に取り組むことが可能になると述べられています。
この4つのことが効果的に実施されれば、アフリカでのパンデミックの収束とHIVの撲滅に繋がりますが、それは世界の協力、支援がなければ困難なことです。今回オミクロン株が南アフリカで発生したことで世界の関心がアフリカに向き、支援が増えていくことに期待したいです。
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3.ウガンダ:コロナ禍でのHIV/AIDSへの取り組み【Pick-Up! アフリカ Vol. 203:2021年8月10日配信】-Link
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