目次
なぜアフリカには独自の「ジェネティックライブラリ」が必要なのか?
英題:Why Africa urgently needs its own genetic library
記事リンク:https://www.bbc.com/news/business-58788040
内容と背景:
こんにちは!Pick-Up!アフリカをご覧いただきありがとうございます。
本日はアフリカでのゲノム医療に関する記事をご紹介します。
ゲノム(genome)とは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)を組み合わせた「全遺伝情報」を意味する言葉ですが、この言葉は1990年からアメリカを中心として行われた「ヒトゲノム計画」によって世界の注目を集めました。
この計画は人の染色体の遺伝情報をすべて解読し、染色体のどこにどんな遺伝情報が書かれているかを明らかにしようとする計画でしたが、人の染色体にある約30億もの塩基対を解読するために13年もの歳月を要した大規模なプロジェクトとなりました。
このプロジェクトによる成果はガンや難病の治療、創薬といった分野での大きな発展に繋がりましたが、人種、地域によるゲノムの多様性にはまだまだ未知数な部分があり、それを解明するための研究は現在も継続して行われています。(文末記事1)
しかしながら、こうしたゲノム多様性の研究には地域による「偏向性」があることが指摘されています。実際にこちらの記事(文末記事2)では、「ヒトゲノム計画」以後のゲノム研究はヨーロッパやアメリカといった先進国を中心として行われてきたために、アフリカ人のゲノム解析率は全体の2%以下に留まるという事実が共有されています。
今回の記事では、このようなアフリカでのゲノム解析の現状の問題性について言及されています。
記事ではまず、アフリカのゲノム多様性の高さについて述べられています。アフリカは人類の起源であるうえに、アフリカからの人口移動が起こったとされる2~4万年前でも他の大陸へ移動した人間はわずかであったため、世界で最も高いとされるアフリカのゲノム多様性は現代まで保存されてきたと言われています。そのためにアフリカでは民族集団ごとに罹りやすい病気や適した治療方法が大きく異なり、ゲノム解析からそれぞれの集団に合った診断方法や治療法を見つけ出すことが重要とされています。
しかしながら、アフリカでの遺伝子医療の発展のための資金、制度、人材育成の基盤の不足がゲノム解析を停滞させてきたことで、アフリカ人向けの診断ツールや医療措置の開発が滞っていた状況があります。それによって、アフリカ人とは遺伝子が大きく異なるヨーロッパ人向けのツールを使用せねばならず、その非効率性や不確実性が危惧されてきました。
記事では、こうした状況を受けて、ケープタウン大学で遺伝子医療を研究しているAmbroise Wonkam氏が他の科学者とともにアフリカ人のゲノム解析プロジェクトを開始したことについて紹介されています。
The Three Million African Genomes (3MAG)projectと名づけられたこの計画は、アフリカ全体のゲノム多様性を正確にマッピングするために最低限必要であると考えられている300万人分のアフリカ人のゲノムを解析することを目標としています。
このプロジェクトは10年の歳月と少なくとも4.5億ドルの費用を要する大規模で長期的な計画になると考えられており、その過程の中で「バイオバンク」(バイオリポジトリ)の立ち上げと運営、データのインフラと技術の開発も行うことを予定しています。(文末記事2)
今回の記事では、こうした取り組みの中でもバイオバンクに焦点が当てられ、ゲノム解析と同時にバイオバンクの拡充を進めることの必要性について述べられています。
バイオバンクとは、ライフサイエンス分野研究の発展のため、生物試料や付随する関連データを収集、処理、保管、配布するための主体的な施設や機関です。関連データには、医療における診療情報からゲノム情報などの解析データにいたるまで、研究に役立つ情報が含まれます。(文末資料3)
記事では、こうした機能を持つバイオバンクを設立することで多くの人がプロジェクトで解析したアフリカ人のゲノムデータにアクセスすることができるようになることが期待されています。
また、バイオバンクによって多くの研究者や医療関係者がデータへのアクセスを持つことで、医療プロセスの合理化や研究開発の向上が促され、将来的にはより安く、より効果的で、より利用しやすい医療を提供できるようになる可能性が高いと言及されています。
この例として、バイオテクノロジー企業であるArtisan Biomed社と協力して、南アフリカでさまざまな医療診断テストを行っているCentre for Proteomic and Genomic Research (CPGR)の現状を挙げることができます。
CPGRは現在、Artisan Biomed社から収集した診断データのフィードバックをもらうことによってアフリカ人に適した診断ツールの開発を行っていますが、これはゲノム解析のデータを使った遺伝子情報の分析をすることができないためであり、十分なデータにアクセスすることができればこうした手間を省いてさらに効率的に開発を進められるようになると言われています。
また記事では、バイオバンクによってアフリカの医療の精度が向上すると述べられています。ゲノム解析データと個人の遺伝子を照らし合わせることで、その人にとって適した治療法やその人の遺伝子変異と病気の関係性を導き出すことができるため、データが普及するにつれて民族に関係なく質の高い診察、治療を受けられるようになると述べられています。
さらにこちらの記事では、ゲノムデータのアクセスを確保することで新しい薬がアフリカ人の手元に届くまでにかかる時間を短縮できると述べられています。基本的に薬剤開発は先進国で行われているため、アフリカ人に新しい薬が届くのは先進国の中で需要がなくなった後になります。しかし、アフリカでデータへの十分なアクセスが確保されればアフリカ内での薬剤開発が促進されるため、アフリカ人向けの薬がスピーディーに供給されるようになると言われています。
こうしたことから、このプロジェクトの基幹部分であるゲノム解析はもちろんのこと、バイオバンクの拡充もアフリカ医療の発展のために高い重要性を持っていると言うことができます。
遺伝子医療以外においてもアフリカでは様々な取り組みが行われてきています。そのことに関して、こちらの記事ではハーバード大と連携した医療従事者の育成について、こちらの記事では障がい者に対する医療の取り組みについて書かれていますので、ぜひ合わせてご覧ください。
関連記事・資料:
1.ヒトゲノム解読 20年の課題 –Link
2.Sequence three million genomes across Africa-Link
3.BiTA バイオリポジトリとは-Link
4.How decoding African DNA could help fight disease-Link
5.ハーバード大学とアフリカCDC、医療従事者を育成する!【Pick-Up! アフリカ Vol. 170:2021年5月24日配信】-Link
6.南アフリカ:2020年のヘルスレビュー、障害のある人々の医療に焦点を当てる(内容解説)【Pick-Up! アフリカ Vol. 98:2021年2月4日配信】-Link
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