訳 : アフリカでもっと多くの若者を農業に誘致するためにはどうすればいいのか
英題:How to Encourage More Youths to Venture Into Agriculture in Africa
こんばんは!いつもPick-Up!アフリカをご覧いただきありがとうございます。
記事リンク:https://olatorera.com/how-to-encourage-more-youths-to-venture-into-agriculture-in-africa/
近年アフリカでは、昨今の日本でも問題となっているように、若者の農業離れが問題となっています。世界銀行の調査によると、サブサハラ地域での全産業に置ける農業従事者の割合は年々減少しており、1991年には労働者の63%を占めていたのに対し、2019年には53%まで低下しています。
しかしながら、アフリカは世界で最も人口に対する若者の比率が高く、15-35歳の若者はおよそ4億2千万人います。今後も増加し続ける人口に対して必要な食糧供給を行うために、若い世代の関心をどのように農業に向けるかが課題となっています。そのためには、どのような取り組みを行うべきなのでしょうか。
なぜアフリカの若者は農業から離れるのか
今回取り扱った記事によると、アフリカの若い世代の間では、農業は労働量が多く、利益が出にくいため、割に合わない仕事とみられているようです。以前こちらの記事でもご紹介しましたが、アフリカ各国でもテクノロジーやイノベーションを駆使した新たな産業、いわゆるwhite-color jobが増加している中で、農業の求心力は急激に低下しています。実際のところ、アフリカの農業は小規模農家の割合が高く、新たな農業技術を導入するための経済力が不足していたり、識字率の低さからも技術の導入に遅れが生じているとされています。
こちらの記事によると、特に問題となっているのが小規模農家の土地所有率の低さと、本来期待できる収量と実際の収量の差(収量ギャップ)です。記事内で取り扱われている論文によると、サブサハラ地域の小規模農家の所有する土地面積は、平均して2ha以下となっています。サブサハラ地域で貧困とされる小規模農家の収入の上限は、1haあたり年間1250ドルとされており、少なくともこの収入を超えないことには貧困から脱することは出来ません。しかしながら、農業の生産性を最大限高めたとしても、作物生産だけで得られる収益はブルキナファソで年間86ドル、エチオピアで年間1184ドルと、作物の生育状況に関わらず、現状の農業を続けたまま貧困から抜け出すことはほぼ不可能であることが示されています。
このようなアフリカの農業の現状を見ると、確かに農業以外の産業に若い人材が流出する理由が分かります。
しかし一方で、アグリテクノロジーが発展したことでアフリカでは農業関連のスタートアップが近年急増しており、農業をビジネスとしてとらえることにより、農業の経済力を向上させる人々も現れています。
そんな中で今回取り上げた記事では、若者の農業への関心を取り戻すために以下の四つの方法を提案しています。
1.農業ビジネスについての情報を拡散して、若者の教育を行う
記事によると、若者が農業ビジネスの始め方、働き方の情報に触れる機会を増やすことが重要であると書かれています。特に、スマートフォンアプリをつかった情報の拡散が若い世代には有効な手段であるとみられています。先週の投稿でも触れたように、2020年末時点で、サブサハラ地域の人口の約46%、約4.9億人の人々がスマートフォンを契約しており、スマートフォンの普及が進むことで、情報の伝達が以前よりも急激に早くなっています。
またアフリカのスマートフォンユーザーの多くは若者であり、スマートフォンを使って農業ビジネスの情報を拡散することで、若い世代の農業への関心、意欲を刺激する可能性が示唆されています。
ここでは、ナイジェリアのひとつのスタートアップ企業の成功例が紹介されています。Farmcrowdy社はナイジェリアで最初のデジタルの農業プラットフォームを運営しており、デジタル技術を用いて農産物のバリューチェーンの適正化を行っています。現在1500以上の小規模農家がこのサービスを使用しています。彼らはナイジェリアの食糧生産の増加を目的としており、今後5年間でさらに50000人の小規模農家の利用、200万人の若者の農業への参加を目指しています。
このように、農業のビジネスとしての一面を強調することで、農業は稼ぐことのできない産業であるという若者の印象を変えることを目的としています。
2.若い農業起業家や農家への、効果的な経済支援、補助金制度を整備する
二つ目は、農家に対しての経済的な支援の強化です。若者を農業から遠ざけている最も大きな要因のひとつが、アフリカ農業の経済的な不安定さです。FAOの調査によると、アフリカ全体の穀物の輸出額は2019年時に約25億ドルであったのに対し、輸入額は約280億ドルにも上り、輸出額と輸入額の間に10倍以上の差が開いています。ナイジェリア、ケニア、ガーナ、南アフリカの値を見てもその傾向は明らかであり、その中でもナイジェリアは、輸入額が20億ドルなのに対し、輸出額が9600万ドルにしか満たないなど、大幅な貿易赤字となっています。
またこちらの記事では、アフリカにおける農産物の輸入量の増加の原因について述べられています。この記事によると、アフリカの多くの国で自給自足が成り立っているにも関わらず、アフリカの2016-2018年の時点でアフリカは食糧の約85%を大陸の外から輸入しており、今後もその額は上昇し続けると見られています。またアフリカ各国で都市化が進行しており、それに伴う食生活の変化も要因のひとつとなっています。特に現在問題となっている非正規労働者の場合、調理のための時間が残っていないことから、国外から輸入されたコムギで生産された手軽な商品を口にする機会が多くなり、結果として作物の輸入量の増加を引き起こしています。
アフリカ圏内の経済力を高める方法として、現在36カ国が批准しているアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が挙げられます。
AfCFTAはアフリカ圏内の貿易における関税を撤廃することによる地域内のバリューチェーンの強化を目的としており、他国への輸出を含めた農産物の販売においても効果的であると見られています。
3.新しい農家を対象としたコンテストや賞レースを開催し、若い世代の農業を活気づける
これは受賞者を表彰することで農業への関心を高め、またその分野で発見された課題を解決するための人材の発掘や育成に用いられます。過去の記事で紹介したものに、Africa food prizeがあります。この賞はアフリカの農業の発展に貢献し、アフリカ全体の食糧保障、経済基盤の強化につながる技術や企業に送られます。アフリカ農業の発展に貢献した企業をたたえることで、より多くのアフリカ農業界をリードする人材が排出されることが期待されています。
またこの賞では、アフリカ全土での応用が可能な技術、活動を評価対象とすることで、受賞した企業の技術をアフリカのほかの国にも拡散し、地域全体の農業の発展に繋げることを目的としています。
4.農業起業家の業績を、著名な媒体で広く紹介する
この方法では農業を食糧生産のための場としてではなく、稼げるビジネスの機会として若者に認識してもらうという狙いがあります。最初の項でも言及した様に、若者が農業に関心を持ち続けるためには、農業は稼ぐことのできない産業であるという印象を払拭する必要があり、農業ビジネスの可能性を多くの若者が知ることで農業への希望を持たせる事が可能となります。
先ほど引用した記事でも、アフリカの小規模農家の多くが農業を食糧生産のためにしか行っておらず、ビジネスとしてとらえている人が少ないという課題があると述べられています。
食糧に対する需要がなくなることはなく、むしろ増加し続けていくため、農業が稼ぐことのできるビジネスであることを若者に理解してもらう事が大切になります。
では現在のアフリカで若者が行うべき、農業ビジネスにはどのようなものがあるのでしょうか。こちらの記事では、ナイジェリアの新進気鋭の農業企業が紹介されています。
Simply Green社
こちらの企業は、ナイジェリアで栽培した野菜をボトルに加工するまで一貫した製造工程を所有し、野菜ジュースの製造・販売を行っています。Simply Green社は、ナイジェリアの作物輸入量が輸出量を大幅に上回っていることを課題にあげ、地元で栽培した野菜を使用することで、野菜の輸入量を減らすことを目標としています。
Honeysuckles PTL Ventures
農場の運営と加工を行っている、ナイジェリアの企業です。農産物の供給不足や品質の低さという問題を解決するために、自社の農場や養殖場の運営を行いながら若い世代のトレーニングを行っています。
Kerekusk Rice社
こちらは、イネの栽培を行っている農業企業です。年間約8000トンのコメを生産しており、この企業もナイジェリアの農産物の輸入量を解決するべき課題としてあげています。
Mebo Farms社
ナイジェリアに拠点を構える大規模な農業企業であり、作物の栽培以外にも種子の生産や農家へのコンサルティング業務、農産物の輸出などを行っています。この企業は地域の農家とバイヤーの間の価格のギャップを是正し、ナイジェリアの農業の競争力を高めることをミッションに掲げています。
これらの企業の特徴を見てみると、アフリカの農業ビジネスの主な解決課題として、農産物の輸入量の多さがあげられており、それを解決する手段として、加工品の輸出に取組んでいる企業があることが分かります。以前の記事でも取り上げましたが、農業製品の加工技術の地域間の差が、食糧安全保障の差に直結しており、そのためにもインフラの整備や食糧の保存技術の向上、普及が求められています。
いかがでしたでしょうか?
若者の農業離れを食い止めるためには、ビジネスとしての農業を発展させる風潮、そして農業ビジネスを支えるための政策や経済的な支援が必要であることが分かりました。このサイトでは、アフリカでの農業・食品製造のスタートアップに関する記事や、農業加工において重要な要素であるコールドチェーン(農産物の貯蔵設備)についての記事も掲載しています。
関連記事にリンクを掲載しているので、そちらもぜひご覧ください。
関連・参考記事:
Current State of Nigeria Agriculture and Agribusiness Sector – pwc – Link
What’s behind Africa’s skyrocketing imports yet increased production growth? – Link
Employment in agriculture (% of total employment) (modeled ILO estimate) – Sub-Saharan Africa – Link
アフリカ大陸自由貿易圏が運用開始 – JETRO – Link
Can African smallholders farm themselves out of poverty? Link
Farmcrowdy- Link
Africa Food Prize 2021- Link
Top 5 Most Promising Agriculture Companies In Nigeria– Link
Agriculture and Technology in Nigeria: Who is Onyeka Akumah?– Link
アフリカ農業における課題点からみるコールドチェーン構築の必要性【面白記事 Vol. 108: 2020年8月14日配信】 – Link
農業バリューチェーンの強化を目指す”Farm to Market”アライアンスとは?【Pick-Up! アフリカ Vol. 75:2021年1月7日配信】 – Link
コールドチェーン網の形成:ナイジェリア起業家へのインタビュー【Pick-Up! アフリカ Vol. 117:2021年2月26日配信】 – Link