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ガンビアはどのようにトラコーマを撲滅させたのか?
How The Gambia beat trachoma, an infection that causes blindness
記事リンク:
How The Gambia beat trachoma, an infection that causes blindness (theconversation.com)
本日は医療や健康についての記事です。2020年の夏にはアフリカ大陸でポリオの根絶が発表されましたが、今回は、ガンビアでトラコーマという目の病気が撲滅されたという記事をご紹介していきます。ガンビアでは一体どのような取り組みによって撲滅が実現されたのでしょうか?
内容と背景:
今回ご紹介する記事によりますと、西アフリカに位置するガンビアでトラコーマが撲滅されたと発表があったとのことです。
トラコーマは、クラミジア・トラコマチスという細菌に感染して起きる目の疾患であり、世界中で約190万人の失明や視力障害の原因となっている病気です。人の手や衣服や寝具を介した接触や、感染した人の目や鼻からの分泌物に触れたハエによって広がります。
この疾病に対し、世界保健総会(World Health Assembly)は1998年に決議WHA51.11を採択し、トラコーマを公衆衛生問題として世界から根絶することを目標としました。2020年は達成目標の年でしたが、同年の総会でNTDs(Neglected Tropical Diseases=顧みられない熱帯病)工程表が承認され、2030年が新たな撲滅の世界目標達成の年と設定し直されました。
トラコーマの撲滅には「SAFE戦略」が用いられています。この”SAFE”は、手術(S: Surgery for advanced disease)、抗生物質(A: Antibiotics to clear trachomatis infection)、顔の清潔さ(F: Facial cleanliness)、感染経路を減らすための環境改善(E: Environmental improvement to reduce transmission)からそれぞれの頭文字をとったものです。トラコーマは世界的にも深刻な病気であり、アフリカのみならず、中南米、アジア、オーストラリア、中東の41か国の最貧困層や農村部に高い頻度で常在し、世界の盲目の1.4%がこの病気によるものだといわれています。
トラコーマをはじめ、白内障や緑内障、加齢黄斑変性症、角膜混濁、糖尿病性網膜症、オンコセルカ症など、目に関する病気はアフリカ地域では多く見られます。WHOによると、アフリカ地域で暮らすおよそ2630万人が何かしらの視覚障害をもっています。そのうちの2040万人が低視力を持ち、そして590万もの人々が視力を失っていると推定されています。この数は、世界全体の盲目者の15.3%を占めています。上記のような病気による失明の最大80%は、今日の技術や知識を活用することで本来であれば防ぐことができますが、目の治療サービスが未だ十分でないアフリカ地域においては、目の病気は非常に大きな健康上のリスクとなっています。
今回の記事の舞台であるガンビアでは、1986年に保健省によって行われた国勢調査によると、国内の盲目の原因の17%をトラコーマが占めていました。ですが、ここ10年間でトラコーマの疾病率は0.1%から0.02%まで減少しました。
今回ご紹介する記事では、具体的にどのような取り組みによってガンビアでトラコーマが撲滅されたかが説明されています。
トラコーマ撲滅に向けた国内における取り組みは1986年に「アイ・ケア・プログラム」ができ、撲滅のための政策が施行されたことから始まります。
その後、Gambia National Eye Programme(ガンビア国家眼科計画)のもとにトラコーマ特別委員会が設置され、また、国内外の専門家とパートナーシップを結んで資源を動員することで計画がすすめられました。
医療スタッフには外科手術を行うための訓練がなされ、国民には病気がもたらすリスクや予防方法を啓発するキャンペーンを実施し、コミュニティにトイレや井戸を設置して衛生環境の改善に努めるなどが行われました。また、トラコーマ患者の診断と治療のために国中に眼科治療ネットワークを形成され、ここでは、何千人ものコミュニティ医療ボランティアたちが訓練を受け、患者を探して家々を回り、抗生物質を多くの患者に投与していきました。
国内の自発的な取り組みに加え、ガンビアは数々のNGO団体の支援を受け、WHOのSAFE戦略も実行しました。このSAFE戦略では、アジスロマイシンという抗生物質が大量に供給され、ガンビアはファイザーからの提供を受けました。これはまた、治療前後の細菌負荷(治療を遅らせる要因となるもの)の観察も可能にしました。
こうした長期にわたる努力の末、ガンビアで公衆衛生上の問題としてトラコーマが取り除かれたことをWHOから認定されました。トラコーマ撲滅の成功によって約10万人の新規患者の発生を防いだとともに、これまでトラコーマの対策に用いられてきた資源を他の公衆衛生の取り組みに割り当てることができるようになったといいます。
記事のなかで、ガンビアでのトラコーマ撲滅を主導するSario Kanyi氏は、その成功の秘訣がコミュニティにあり、トラコーマがどの様な病気なのかを知った人々が、病気に対して何をする必要があるのかを協力して伝えていったことが大きな役割を果たしたという旨の発言をしています。そのように、国家レベルの病気撲滅の取り組みのなかであっても、個人個人が意識して積極的に行動したことが撲滅成功という結果につながったのだと感じました。この姿勢や態度は、多くの感染症に悩まされる他のアフリカ諸国や、COVID-19への対策としても、私たちが学ぶことができる点なのではないかと考えます。
これまでも、アフリカにおける病気とその予防や治療に関する様々な記事を取り上げてきました。興味がある方は、下の参考・関連記事のリンクからぜひチェックしてみてください。
参考・関連記事
- Trachoma(WHO) – Link
- Eye health(WHO) – Link
- WHO validates Gambia for having eliminated trachoma as a public health problem – Link
- アフリカ大陸のポリオ根絶宣言。他、コロナ渦のHIV検査キットに関する話題【面白記事 Vol. 119: 2020年8月27日配信】 – Link
- アフリカでのAI・テクノロジーによる医療革命【面白記事 Vol. 140: 2020年9月21日配信】 – Link
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- アフリカの医療課題解決のための官民連携【面白記事 Vol. 61(2020年6月17日配信)】 – Link
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- 注目のアフリカ遠隔医療に関する記事-南アフリカの糖尿病遠隔医療、共同投資を得る。他、ケニアの話題【面白記事 Vol. 107: 2020年8月13日配信】 – Link
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