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南アフリカ:LGBTQIA+の難民申請における法の不遵守
SA officials ignore laws on LGBTQIA+ asylum seekers
記事リンク:
SA officials ignore laws on LGBTQIA+ asylum seekers : New Frame
内容と背景:
人権や個人の自由に関心が払われ重要視されるようになった今日では、性的マイノリティといわれるような人々の権利向上の動きが世界中で繰り広げられています。日本でもその関心は高く、昨日5月24日には、自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会が党本部で会合を開き、LGBTなど性的マイノリティの方々への理解増進を目的とする議員立法の法案を審査しました。
日本での取り組みも世界的に見るとまだまだ改善の余地がありますが、アフリカにおいてもその取り組みが遅れていることが問題となっています。
そのなかで、南アフリカはアフリカ大陸内のなかではLGBTQIA+に対する法の整備がかなりすすんでいる国と言われています。次の図をご覧ください。
こちらの図は、ILGA World (the International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)という性的マイノリティといわれる人々の人権を求めて活動する世界的な組織が2020年に発表したものです。この図では、寒色(青色系)では様々な分野で性的マイノリティの方の権利が法的に認められ、暖色(赤色系)では反対に法的に制限もしくは禁止されていることを表しています。
この図を見ると、暖色がほぼ全てを占めるアフリカ大陸内において、南アフリカは寒色であり、性的マイノリティに関する法が圧倒的に整っていることが分かります。
南アフリカは、アパルトヘイト後に制定された憲法において、世界で初めて性的指向に基づいた差別を禁止しました。そして、現在アフリカ大陸の国で唯一法律で同性婚を認めている国でもあります。同性カップルは養子の受け入れや体外受精や代理出産を行うことも認められています。雇用やサービス提供においても差別は禁止され、こうした国の法的側面から、「LGBTの人々はLGBTではない人と同じ権利を享受している」と評価する声もあります。
しかし、そのように法律面ではLGBTQIA+の人々を擁護する体制は整っていますが、実際に差別が皆無というわけではないのが現状のようです。今回ご紹介する記事からもその点を読み取ることができます。
それでは、今回ピックアップする記事をご説明します。
南アフリカとは異なり、ケニアでは同性愛は違法で、最長14年の刑が科されることもあります。そんなケニアで、2013年にテレビ番組で国内で初めてゲイであることとHIVに感染していることをカミングアウトした30歳のバラサさんに対し、ケニア政府は逮捕状を発行しました。そこで、ケニア国内で直面していた差別や侮蔑から逃れるため、彼はLGBTQIA+に寛容な南アフリカに逃れてきました。
しかし、南アフリカに着いてからも、彼が期待していたような扱いを受けることはできませんでした。というのも、難民申請は却下され、難民認定局(RSDO)の職員には彼のセクシュアリティを疑われ、生命の危機があるという主張も退けられたのです。
記事によりますと、このようなことは決して珍しいことではないそうです。これまでにもRSDOは65人の性的マイノリティの人々による難民申請を拒否していました。これに関して行われた調査によると、内務省の職員たちが性的指向や性自認に基づく難民申請を審査する際、重要な法的原則を守っておらず、いくつかの法律に背いていたことまでもが明らかになりました。
また、RSDOが用いる言葉や文構造や文法のなかには差別的で中傷的なものが含まれていることも指摘されています。例えば、RSDOは多くの場面で性的マイノリティの人々のことを ”a gay”と表現していますが、これは日常使われる英語では、嫌悪感を含意するものです。
さらに、本来は存在する法律を「存在しない」と記し、またある時は、職員が申請拒否の根拠を示す際に、その情報源として新聞記事やアメリカなど海外の報告書、さらにはWikipediaなどの信用性の薄いものを用いたものがあり、なかにはそれらの文章をそのまま書き写したものも見つかったということです。
このように、セクシュアリティに基づく迫害から逃れてきた人々に対し、誤った法律を適用させ、偏見に満ちた言葉を使い、適切な情報を用いて審査をしていない職員たちの行動が明らかになりました。
性的マイノリティに対する国家による懸命な法整備がある一方で、その実践は未だ不十分であるようです。
関連して、LGBT擁護と国民の意見には隔たりがあるという興味深いデータもあり、こちらでご紹介します。
南アフリカのLGBTに関して調査しまとめられた「The Economic Cost of LGBT Stigma and Discrimination in South Africa」によると、2013年に実施された調査から、61%の南アフリカの人は社会が同性愛を認可することに反対し、62%の人は同性愛を道徳的に受け入れられないと答え、約7割の人は同性間の性交や性別服装規定を破ることに対して間違っていると考え、不快と思う人もいるという結果が出ました。また、より最近の調査からは、55%の南アフリカの人は国がトランスジェンダーの人たちを保護し支援するべきと考える一方で、35%の人は反対しています。
このようなデータやご紹介した記事から、南アフリカでは性的マイノリティの人たちを保護し、権利を向上させるための法整備はすすんでいますが、人々の気持ちがまだ追いついていない、という現状が読み取れます。法をつくるだけでなく、当事者の声を聞く機会をもっと増やすことが大切だと思われます。
今後もアフリカ諸国の性的マイノリティに関する取り組みについて注目していきたいと思います。
関連・参考記事:
- アフリカのLGBTQ、根強い差別意識とその背景【Pick-Up! アフリカ Vol. 22 (投稿:2020年10月29日)】- Link
- アフリカ:教員がメンタルヘルス支援を行う?【Pick-Up! アフリカ Vol. 164:2021年5月14日配信】- Link
- アフリカとWikipedia【Pick-Up! アフリカ Vol. 121:2021年3月4日配信】- Link
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