こんにちは。Pick-Up! アフリカです。本日は、教育の場にAI技術を導入し、新たなソリューションを導き出すという世界の動きに関して、アフリカ大陸ではどのような取り組みやビジネスが成立しているのか、どのような問題解決を引き出せるのか、そしてAI導入に障壁はないのか、まとめてみました。

ぜひご覧ください!

アフリカの教育現場に導入されるテクノロジー

アフリカ大陸は、リープフロッグ現象が起こりやすく、イノベーションを促進するのに先導を切ることのできる、期待の場と言われています。例えば電子決済を手にとってみても、M-Pesaのようなモバイルサービスの広がりは著しく、世界中のモバイル決済額の7割はアフリカ大陸で行われています

そして、EdTechという言葉がよく聞かれるように、教育分野でテクノロジーを活用する動きも勢いを増しています。アフリカでも同様に、テクノロジーを積極的に活用するスタートアップが増えており、私たちの過去記事でも多数のEdTech企業を紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

本日は、テクノロジーの中でも最近注目を浴びているAI(人口知能)に焦点を絞り、AIが教育にどのように活用され、教育問題のソリューションになりうるのかを見ていきます。

まずAIが教育セクターにもたらす影響(メリットと障壁)を見た後に、実際にアフリカで実用されている例を見ていきます。

AIはアフリカの教育セクターにどのような貢献ができるのか?

参考記事では、AIがアフリカの教育問題に対するソリューションとして果たすであろう役割として、以下のことを挙げています。

★教育へのアクセスの拡大

AIは、遠隔教育プラットフォームや仮想教室の提供を可能にします。それによって、地理的な障壁を解消し、平等に質の高い教育へアクセスできることが期待できます。

★教師の補助とエンパワメント

教師は、AIを活用することによって効率を飛躍的に上げることが期待されています。例えば、AIを活用した成績評価システムを使えば、教師は作業時間を省くことができ、生徒との直接的な指導などに集中したり、アフリカの多くの国で問題となっている教師不足の問題を解決することができます。

また、AIは教師の行いを分析し、各教師専用のプログラムを提供し、教師の能力と効率性を高めることもできるようです。

★インクルーシブな教育

これはアフリカに限った話ではありませんが、教師が生徒の学習障害を発見することは容易ではありません。AIは生徒のパフォーマンスの傾向を分析することができるため、生徒の学習障害を早期に発見することができるそうです。

また、こちらの記事によると、テック・エデュケーターであるBorokinni氏は、AIによって障がいを持つ生徒が教育にアクセスできる範囲が広がると主張しています。例えば、AIによるテキスト読み上げ機能を利用すれば、視覚障害を持つ生徒であっても、文面で書いてある教材を使うことできます。また、学習速度の遅い生徒に関しても、AIが生徒の学習能力を向上させるためのソリューションを提供してくれます。

★個人向け学習における革命

AIによって、生徒一人一人のユニークなニーズや弱点に基づいて、各生徒専用の教育を提供できます。EdTechを活用するスタートアップは、AIのアルゴリズムを活用し、生徒の理解を深めたり、学習成果を改善したり出来るような教育を提供することができるでしょう。アフリカではパーソナライズされた教育への需要が高まっています

★アフリカの言語の障壁を解消する

参考記事によると、アフリカでは、言語の問題に付随して様々な教育問題があるようです。例えば、ユネスコによると、生徒の理解速度をあげ、知識格差を避けるために、小学校に母国語で教育を受けることが不可欠だそうですが、アフリカでは人口の40%が母国語で教育を受けらないがために、結果として教育自体を受けられない子どもが何百万人もいるようです(詳しくはこちらの過去記事をご覧ください)。

AIによる翻訳機能を活用すれば、様々な地方の言語に対応する教育を、大陸中に提供することができる上に、情報格差の改善にも貢献できるようです。

アフリカの教育にAIを導入する上で生じる障壁

ここまでAIを導入するメリットを挙げてきましたが、実際に導入する上で、アフリカ大陸のコンテクストを考える必要があります。導入する上での障壁を、以下に挙げます。

★低いインターネット普及率

2020年のGSMAのレポートによると、サブサハラアフリカにおけるインターネット普及率はたったの27%。こちらの過去記事によると、アフリカで最も人口の多いナイジェリアでは、自宅でインターネットにアクセスできる子供はわずか3%だそうです(2021年時点)。

また、教師のデジタルデバイドも深刻で、例えばルワンダでは、2020年時点で35%の教師しかパソコンにアクセスできないようです。(参考記事

これは、子どもたちや教師がインターネットへアクセスできる、基本的なインフラをまず整える必要があるということを示唆しています。

★技術の導入に必要な資金不足と買い手の購買力不足

技術の導入を主導するのはしばしば民間セクターで、アフリカでもEdTechのサービスを提供する企業がいくつも存在します。

しかし、こちらのマスターカード財団が公開したルワンダのEdtechに関するレポートによると、EdTechのビジネスを行う企業は、資金不足が大きな障壁となっているようです。

ルワンダで展開するEdTech企業が採用するビジネスモデルは、収益主導型の財務モデルからはかけ離れている場合が多く、助成金による資金調達が多いようです。

Edtechで収益を出すことは不可能ではないものの、投資家はリターンを長い目で待つ意欲がないとのことです。

さらに、教育機関や家庭がEdTechのサービスを購買する経済力がない、またはプラスアルファ(として捉えられている)Edtechサービスを購入する意欲がない場合が多く、必然的にEdTech自体が小規模なビジネスになってしまうようです。

★さらなる教育格差の可能性

上記で見てきたように、インターネットやEdTechのサービスにアクセスできる生徒・教師は一部であり、インクルーシブな教育を目指すべくAIやテクノロジーを導入しても、逆に教育格差を広げてしまうだけの可能性があります。

アフリカでの民間セクターによるAI導入の例

世界レベルで見ると、教育セクターにおけるAI市場は、2020年に15.5億米ドルを占めており、2028年には256.3億米ドルに達すると予想されています。(参考記事

世界で見ると、K-12(幼稚園年長〜高校卒業までの13年間)の生徒向けの教育サービスを提供する、中国のSquirrel Aやペンシルベニア州のCarnegie Learningが有名です。日本でもQubenatama+などのAI型教材が生まれています。それでは、アフリカではどうでしょうか。

ここでは、AIを活用した教育サービスを提供するスタートアップとともに、国家レベルでAI×教育に順応しているアフリカのいくつかの地域・国を例にとって、アフリカの最新の動向をご紹介いたします。

ナイジェリア・西アフリカ

ナイジェリア

ナイジェリアでは、AIを活用した教育サービスが学校で採用されています。

例えば、2019年に創設されたGradelyというスタートアップは、AIを活用したアダプティブラーニング(各生徒の能力・個性に合わせて学習プログラムを進めるもの)のサービスを提供していますが、これは家だけでなく、60もの学校で利用されているそうです。(参考記事

また、2014年にナイジェリアで生まれたSlatecubeというスタートアップは、キャリアアップや修士号取得のための教育サービスを、AI活用型SaaS(Software-as-a-Service、クラウドサービス事業者がソフトウェアを稼働し、クラウド上にあるソフトウェアをインストールせずにインターネット経由で利用できるサービス)を通して提供しています。この企業が解決しようとしている問題は、アフリカ大陸における失業率です。現状として、アフリカでは大学卒業生が持つスキルと、雇用市場で雇用主が実際に求めるスキルの間にギャップがあり、結果として卒業して半年経った卒業生の3人に2人が失業状態だそうです。

Slatecubeは、最初ナイジェリアをターゲットとしていましたが、南アフリカやエスワティニといった南部アフリカにも展開し始めたようです。

そして、AIを教育に組み込もうとしているのは、企業だけではありません。こちらの記事によると、ナイジェリアの大学講師であるAzubuike Ezenwoke博士は、AIを使って大学のカリキュラムを強化できると主張しています。具体的には、AIを活用することで、最新の業界知識を組み込むことができたり、研究プロセスを加速したりできるとのことです。

西アフリカ諸国

サンジーヴ・マンソトラ(Sanjeev Mansotra)氏(参考記事は、ドバイに拠点を置く最近話題のビジネスマンで、Planet One Group(政府に対して教育・農業・貿易などの分野におけるソリューションやトランスフォーメーションを提供する組織)のメンターです。彼は教育者でもあり、起業家でもあるのですが、西アフリカの国々(ガーナ、シエラレオネ、ギニア、セネガル、トーゴ、コートジボワール)で、教育・農業・医療に革命を起こすため、インフラ開発を行っています。(参考記事)彼はPlanet One Groupとして、サービスの行き届かない地方に住む生徒に、質の高い教育を提供するために、学校・職業訓練センター・デジタル学習プラットフォーム・政府立学校と教育機関とをつなぐネットワークを設立しています。

ケニア・東アフリカ

2016年にケニアで創設されたM-Shule(スワヒリ語でモバイルスクールという意味)というスタートアップは、東アフリカ全域に展開しており、SMSとAIを組み合わせて、低所得層のコミュニティに対して対話型かつパーソナライズされた教材を提供するサービスを提供しています。このプラットフォームはケニアの60県、ウガンダ、タンザニアを含む2万以上の世帯に普及しており、6科目7言語(ソマリ語、スワヒリ語、その他ローカルな言語など)に対応しています。このサービスは難民や障がいを持つ生徒にも提供されているほか、小学校でも利用されており、SMSで自動で保護者や学校に生徒のパフォーマンスをレポートするそうです。

ケニアで立ち上げられたEneza Educationというスタートアップは、AI家庭教師ソフトウェアを提供しており、ケニアをはじめとし、コートジボワール、ガーナを含む5カ国に展開している企業です。ソフトウェアの利用者はなんと600万人にものぼり、9ヶ月間Eneza Educationで学んだ後に、学業成績が23%向上したことが実証されています。(参考記事

アフリカにおける教育関連の画期的な企業やアプリケーションは、こちらの過去記事でもいくつかご紹介しております。紹介している企業の中でも、今回お話したAIを駆使したものに、Stanlabという企業があります。Stanlabは、3Dの仮想研究所プラットフォームを提供しており、生徒は物理的な研究所へのアクセスがなくても、現実に似たような研究所での体験が出来ます。

その他注目のスタートアップ

★Altschool Africa公式サイト

Altschool(オルトスクール)は2021年に元Google社員が立ち上げた企業で、生徒一人一人に対してカスタマイズされた教育を提供する、マイクロスクールという学校です。

Altschool Africaは、ソフトウェアエンジニアになりたいアフリカ人を対象に、一年以内にトップソフトウェアエンジニアに育て上げるプログラムを提供しています。

★uLesson公式サイト

2019年にナイジェリアで立ち上げられた企業で、初等教育〜中等教育向けのオンライン教育プラットフォームを提供しています。膨大な量のビデオレッスンをインターネットの接続なしで見れたり、宿題の手助けをしてくれる機能、ライブレッスンやクイズなど、様々なサービスがあります。(参考記事

アフリカでの国際組織によるAI導入の例

AIの技術を導入し、教育に革命を起こす動きには、民間セクターだけでなく国際機関・地域組織もイニシアチブを取り、または民間の後押しをする役割を果たしています

UNESCOの取り組み

UNESCOは、教育の場でのAIの導入に関して積極的に動いています。現在進行中のプロジェクトを一つご紹介します。(参考記事

★プロジェクト名:「Integrating Artificial Intelligence and Digital Innovations to strengthen Inclusion and Equity in Education in Africa(アフリカの教育においてインクルージョン・公平性を強化するためのAIとデジタルイノベーションの統合)

★対象国:モーリシャス、ルワンダ

★目的:①ICT技術を導入し、教育におけるジェンダー格差を是正し、女子のSTEAM教育へのアクセスを拡大する。②AIを導入し、障がいのある生徒や脆弱な生徒に教育を提供する。

★主な内容:ニーズの調査、トレーニングプログラムの作成、リソース・トレーニング用の機関の創設、オンラインリソースポータルの構築

実際、このプロジェクトの一環として、こちらの記事によると、2022年には教育者向けのオンライントレーニングを行い、ICT技術を使ったインクルーシブな教育の可能性やノウハウを教えるキャパシティビルディングを行ったそうです。

その他にも、2021年には、アフリカ各国におけるAIの導入状況やニーズ、AIを導入できるキャパシティがあるかどうかなど、アフリカ諸国の環境を知れるようなリサーチレポートを発刊しています。(ご覧になりたい方はこちら

このプロジェクトは、UNESCOと中国の旅行会社であるChengdu Culture & Tourism Development Groupが協力をして行っているようです。

おわりに

いかがでしたか?アフリカではAIを教育サービスに活用するのは時期尚早なのでは、という声も上がる中、上記の企業のCEOやアフリカのEdTechを主導する起業家たちは、今がAIを導入するベストのタイミングだと主張しているようです(参考記事)。

一方、アフリカは日本からの技術を輸出できるチャンスのある大陸ですが、常に最新の技術や日本社会に合ったサービスを使えば、最善のソリューションを引き出すことができるとは限りません

例えば、先ほど紹介したM-Shuleは、古いコミュニケーションツールであるSMSを利用できる人であれば誰でも利用することのできるサービスで、アフリカでSMSを利用したサービスは、教育分野に限らず、農業分野でも見受けられ、相当数の人々が利用をし一躍有名になっています。(農業サービスはWefarmという企業による無料サービスで、農家が互いに助け合う、世界最大の小規模農家コミュニティです。M-Shuleと同様、AIを活用し、効果を最大化しています。)

SMSはとてもシンプルなサービスで、どんな機種や端末であっても(iPhone/Andoroid/ガラケー/PCなど)、不自由なく使うことのできるものです。実際にM-Shuleは、人口の8割がスマートフォンを所有していないという現地の文脈に合うよう、SMSという比較的アクセスのしやすいサービスを提供しています。

一方、日本ではテクノロジーを活用した教育サービスと言えば、スタディサプリのようにアプリのインストールを必要としたり、スマイルゼミ、進研ゼミのようなタブレットを必要としたり、インターネットと高価な端末を必要とするサービスが主流です。

こちらの情報によると、アフリカにおいてタブレットの所有率はたったの1.09%、パソコンの所有率は23.46%、モバイルは75.45%になっています。

よって、日本でヒットしているサービスをそのままアフリカ大陸に持ち込むのではなく、アフリカ大陸の文脈と現状に沿った形で、サービスを開発していく必要があるということがわかります。

私たちは、様々な切り口から、今後もアフリカの教育事情を追っていきたいと思います。どうぞお楽しみに!

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