【コラムーVol.10:アフリカにおける農業保険の重要性 |ブロックチェーンは小規模農家の希望となるのか 2022年4月22日配信】

訳 : 暗号化された気候保険?ブロックチェーン・フィランソロピー・プロジェクトが始動。

英題:Crypto climate insurance? Blockchain philanthropy project launches

記事リンク:Crypto climate insurance? Blockchain philanthropy project launches – Tech News – Haaretz.com

こんばんは!pick-up!アフリカです。いつも記事をご覧いただき、ありがとうございます。

本日はコラムとして、アフリカの農業保険についてご紹介したいと思います。日本でもJA共済などを中心に、天候や災害など様々なリスクのある農業生産に対しての保険制度が存在していますが、農業にあまり関わりのない方々にとっては聞きなれない言葉かもしれません。

今回はそんな農業保険に関して、アフリカ農業の現状をお届けしたいと思います。

新しい農業保険サービスが開始

今回はこちらの記事を元に、アフリカの主に小規模農家における農業保険の課題と、これからについてお伝えします。

記事によると、イスラエルの保険会社Lemonade社が設立した非営利団体Lemonade Foundationは、3月22日に最初のプロジェクトとして、発展途上国の自給自足農家を対象とした農業保険を発表しました。

この基金を設立したことで、天災などによる作物の被害、およびそれによる経済的損失のリスクを低く抑えることができるようになります。

こちらの記事によると、農業はサハラアフリカの国々のGDPの約23%を占めており、2020年時点でアフリカ全体の雇用の約43.8%が農業分野に属していることから、今回扱うよう農業保険のようなリスクマネジメントは必要不可欠であると言えます。

アフリカにおける農業保険の現状

ですがその農業保険ですが、現在アフリカでは小規模農家の保険加入率の低さが課題となっています。


こちらのデータによると、世界全体で農業保険に加入している小規模農家の割合は20%未満であり、サブサハラアフリカでは3%未満の数値にとどまります。

またこちらの記事によると、世界銀行の発表によるとアフリカ全体の農業保険の保険料は約2億USドルで、世界全体の1%にも至らないと記されています。

なぜこのように、小規模農家の保険加入率が低い結果となってしまっているのでしょうか。

このような現状の背景を探るために、小規模農家、保険会社の双方の視点から、農業保険加入の妨げとなっているハードルについてご紹介します。

1.小規模農家の保険に対する認知度の低さ

アフリカで保険が普及しない理由の一つに、保険に対する認知度の低さが挙げられます。

実際に2021年に発行された論文によると、ケニアの7コミュニティ計200人を対象に行われたアンケート調査において農業保険へのアクセスは全体の14%と低い数値であったほか、農業保険にアクセスできていない理由の64%が保険に対する知識が不足していることだったそうです。

また、人々の保険に対する不信感の強さも保険の加入率を低下させる原因の一つです。こちらの記事によると、アフリカの人々の性質としてネガティブな結果に対する保障よりもポジティブなものに投資する傾向があるほか、顧客へのサービスの悪さや保険金の未払いが人々の保険に対する印象を悪化させているようです。

2.保険へのアクセスに対する男女間差

こちらの記事では、アフリカの小規模農家における保険アクセスへの男女間の差について述べられています。

記事によると、アフリカでは農業雇用者の40%以上が女性であり、国によっては70%にも及ぶものの、農業用の土地や技術、投入物など、あらゆる農業関連資材へのアクセスに対して、男性よりも制限が大きいと記されています。

同記事ではさらに、女性への信頼を高めることで保険の普及率をより増加させることが可能であることが言及されています。記事によると、女性は生涯で平均26件のファイナンシャルアドバイザーを紹介しており、これは男性の2倍以上の数字であることから、女性のコミュニティ内の口コミによる拡散力は男性よりも強く、アフリカの農村部における保険普及率の拡大おいても、女性の保険へのアクセスを整える必要性が示唆されています。

3.アフリカの農業における天候リスクと収益性の低さ

次に保険会社にとって参入障壁となっている、現状の課題についてご紹介します。

彼らにとって最も大きな参入障壁となっているのが、環境リスクの高さです。アフリカは地域によって、干ばつやバッタによる被害(詳しくはこちら)、洪水など、様々な天災により作物が被害を受けるリスクが高く、保険会社を遠ざける一因となっています。

こちらの記事では、近年の気候変動により干ばつの被害が以前より深刻化していること、そのため農業保険がより一層重要性を増していることが記されています。一方でこちらの記事では、そのことが保険提供者側のコストを高め、小規模農家でもアクセスできる価格帯での保険の提供を遠ざけていると記されています。

別の記事では、アフリカにおける農業保険の収益性の低さについて述べられています。記事によると、サブサハラアフリカのような地域では、基本的に保険金が少額で保険金によって得られる利益よりも手続きにかかる費用の方が大きくかかってしまい、保険会社が利益を生み出すことが難しいことが、保険会社が農業保険に参入できない要因と一つとなっているようです。

農業保険加入のメリットとは

これまでアフリカの小規模農家における農業保険の現状と課題について述べてきましたが、Lemonade社のように農業保険に参入するメリットとしてはどのようなことが挙げられるのでしょう。

こちらの記事に記載されている内容によると、短期的なメリットとしては、農家が購入した種子や肥料を保障することで、異常気象などで作物が被害を受けた場合にそれらの購入費用が払い戻され、農家の経済的な負担を減らすことができます。

長期的なメリットとしては、新しい農業技術への農家の心理的な負担を減らし、生産性を向上することができます。これは保険というバックネットを用意することで、小規模農家が不作による経済損失を心配することなく、高品質の種子や新しい農業資材を導入でき、結果的に収量の向上につながるということです。

保険を広めるための新たなテクノロジー

さてそんなアフリカの農業保険業界において、テクノロジーを用いた新たな動きが見られていますので、今回はそちらを最後にご紹介します。

冒頭でもご紹介したように、イスラエルの保険会社Lemonade社は3月22日に、ブロックチェーンを用いた新たな農業保険サービスを発表しました。同ニュースを取り上げたこちらの記事によると、同社がリリースしたのは衛星で取得した気象データを用いた農業保険であり、アフリカにおける突然の豪雨や干ばつなどの気象データを元に、被害にあった農作物の収量や、投入資材(肥料、タネなど)の金額を保障します。

ブロックチェーンにおける最大の特徴として、スマートコントラクトが挙げられます。こちらの記事によると、今回のサービスの大きな特徴として、気象データに基づいた保証金の変換が行われるということがあります。

詳しく説明すると、ある一定量の降水量や、一定期間以上の干ばつが起こった際に保険金が戻ってくるといった契約を行うことで、審査を介さずお金を手にすることができるというシステムです。

このシステムはブロックチェーンの技術を利用することで、仲介業者を介さずにシステム上でやり取りを行い、保険の販売、調査、流通に要していたコストを削減することで、小規模農家でもアクセスできる低コストの農業保険が可能となりました。(参考記事

一方で、これらの技術には課題も存在します。こちらの記事によると、課題の一つがアフリカの農業地帯における気象データの少なさです。記事によると、地上の観測所の少なさから十分な量のデータの蓄積が不足しているほか、別の記事では、衛星データによる降水量推定の精度の向上が必要であることが述べられています。

また同社は、ブロックチェーンによる自動支払いの強化にも取り組むことを示唆しており、農家からの請求を待たずして保険金の振込を行えるようなシステムの構築を目指しているようです。

いかがでしたでしょうか。アフリカの食糧供給を支える小規模農家の経済状況が安定することで、今後のアフリカのさらなる発展が期待されます。

私たちPick-Up!アフリカでは、アフリカの農業に関する新しいテクノロジーの導入について、これからもいち早くお伝えします。過去の記事でも特集しているので、気になる方は関連記事から探してみてください。

またアフリカ進出に関するご相談についても、その下のリンクからお気軽にお問い合わせください。

参考文献:

1.Agricultural insurance for smallholder farmers Digital innovations for scale – Link

2.Driving Up Africa’s Insurance Penetration – Link

3.Agricultural insurance access and acceptability: examining the case of smallholder farmers in Ghana – Link

4.How Etherisc is insuring Kenyans farms – Link

5.De-risking Nigerian women farmers through innovative insurance – Ventures Africa – Link

6.Crop Insurance Can Improve Food Security in Africa | One Acre Fund – Link

7.How adopting a “cloud anywhere” approach can drive business success – Link

8.DeFi’s Payouts Enable Crop Insurance in Africa | PYMNTS.com – Link

関連記事:

1. 食料の安全保障維持に向けたアフリカ諸国政府とイスラエル企業らの連携【Pick-Up! アフリカ Vol. 2: 2020年10月6日配信】- Link

2.[更新]アフリカでスマート農業は普及するのか?アフリカ農業に必要な支援とは【Pick-Up! アフリカ Vol. 1:2022年1月7日配信】 – Link

3.コロナ禍でアフリカの農業に変化?eコマースが農業の流通を変える【Pick-Up! アフリカ Vol. 2:2022年1月21日配信】 – Link

4.南アフリカ:eコマースと物流の現状と今後【Pick-Up! アフリカ Vol. 19:2022年3月23日配信】 – Link

5.給食の復活が、アフリカの子供たちに教育を取り戻す【Pick-Up! アフリカ Vol.16:2022年3月11日配信】 – Link

ご相談・お問い合わせ

アフリカ・ルワンダへのビジネス進出をご検討の際は、当サイトの運営に関わっているレックスバート・コミュニケーションズ株式会社までご相談・お問い合わせください。

コメントを残す