目次
優秀な人材がどんどん他の国に移動してしまうことを「人的資本流出」や「頭脳流出」などと言い表されています。今後の国の発展を支える知識人の海外への流出は、アフリカをはじめとした開発途上国の経済に負の影響を与えるという懸念が広がっています。
そこで今回は、英国が医療従事者の多くを開発途上国から雇っているということについて「頭脳流出」の観点から批判が書かれた記事をピックアップしました。
関連記事も併せてぜひご覧ください。
記事:途上国地域から医療従事者を密猟したとしてイギリスが非難される
UK accused of poaching health workers from poorer countries
記事リンク:https://www.groundup.org.za/article/uk-accused-poaching-health-workers-poorer-countries/
内容と背景:
優秀な人材がどんどん海外にでてしまう「Brain drain」=「頭脳流出」は、開発途上国では近年、特に問題視されています。
例えば、ガーナの事例では、2001年に約500人の看護師を国外に失ったとされ、その数は同年のガーナの教育機関を卒業した看護師の2倍以上の数にのぼると言われています⑸。
そこで今回ご紹介する記事では、英国の医療現場が開発途上国から多くの医療従事者を雇用していることに対して、道徳的に異議を唱えた内容が記されています。
南アフリカの医療ジャーナルに寄稿された内容によると、医療従事者の雇用について、2019年に英国での診療を許可された医師の約35%が海外で資格を取得した者であるということです。
また、その内訳は、他のヨーロッパ(EU)諸国から約67,000人、アジア地域から約64,000人、アフリカからは、約15,000人(南アフリカ1,719人、ケニア806人、ジンバブエ4,192人、ナイジェリア8,241人)となっています。
2006年の世界保健機関の報告書では、サハラ以南のアフリカ地域では、適切な医療を利用できる人口はわずか5%であるにもかかわらず、同地域の医師の少なくとも25%が海外に移住しているということが明らかになっています。
医療従事者不足という現状はありながらも、待遇の違いで医療従事者の多くは英国に流れてしまっているようです。
現在の英国の移民規則は、すべての開業医(および看護師、救急医療隊員、放射線技師、作業療法士、言語療法士)を不足している職業として認識しており、国民保健サービス(NHS)でそのようなポストを提供された移民には、減額されたビザを付与し、移転に伴う料金と手厚いサポートを提供する、と謳っているようです。
また、この記事では、医師の移住における「頭脳流出」は、直接的な財政投資の喪失(低所得国から高所得国に医師が移行することにより、低所得国では年間158.6億米ドルの損出が生まれているという⑹。)だけでなく、移住した医師が出身国にとどまっていた場合に救うことができたであろう人命の喪失、つまり「excess mortality=超過死亡率」についても問題視しています。
また、アフリカは世界の疾病負荷の約20%を担っているとされているものの、その科学的成果は世界のシェアの1%未満にすぎません。これはアフリカ大陸内に優れた科学者・研究者が少ないという事実にも起因していると言います⑺。
医師不足という問題だけでなく、アフリカの医療事情は様々な人材の不足により、厳しい状況に置かれているということが理解できます。
途上国のみならず、現在では医療従事者の数がどの国でも足りていないという状況がありますが、それぞれの国で人材をどのように守っていくのかということは重大なトピックなのではないでしょうか。
教育分野への投資・高度人材の誘致・国内における高度人材の育成という3つの項目から各国の競争力を測る世界タレントランキング⑷では、1位にスイス、2位デンマーク、3位スウェーデンと北欧の国が並んでいます。その中で日本は63か国中35位と例年に比べ順位を落としています。アジア地域では、シンガポールが10位、香港15位、台湾20位にランクインしているようです。
このランキングを見るだけでも、日本でも高度人材の育成が課題であり、「頭脳流出」は他人事ではないということが推察できます。
上位の国々が国内でどのように人材育成に投資をしているのか、そのグッドプラクティスから学びが得られるのではないかと感じました。
今回の記事では、頭脳流入先のイギリスについて批判的なコメントが述べられている内容となっていました。しかし、この課題に関して取り扱っている記事などを読むと、優れた頭脳が大陸外あるいは大陸内のより好条件での仕事を提供している環境に移る理由の中に、出身国の政治や治安、そして安定したより良い収入や生活環境の確保などの他の条件も絡んでいるという見解が散見できます。
この問題の一つの取り組み方として、頭脳流出が加速するアフリカ各国も、自国の国民が働きたいと思える環境や待遇を整えるために、安定した政治を行い、国民への福祉を保障するなど、努めるべきことを遂行するなど、環境づくりに努めるということも重要であると感じました。
関連・参考記事:
- アフリカの人的資本に関する話題- 頭脳流出と人材育成教育【面白記事 Vol. 134: 2020年9月14日配信】Link
- 世銀最新レポートから、アフリカの人的資本投資について考える【Pick-Up! アフリカ Vol. 28 (投稿:2020年11月5日)】Link
- WiredIn Japan Inc.ホームページにて『Rebrain』発表!Link
- IMD World Talent Ranking 2019 results Link
- 頭脳流出と移動の自由 The brain drain and freedom of movement Link
- The impact of physician migration on mortality in low and middle-income countries: an economic modelling study Link
- アフリカの科学技術研究の課題 – 脱植民地化に向けて【Pick-Up! アフリカ Vol. 43 (投稿:2020年11月23日)】Link
ご相談・お問い合わせ
アフリカ・ルワンダへのビジネス進出をご検討の際は、当サイトの運営に関わっているレックスバート・コミュニケーションズ株式会社までご相談・お問い合わせください。